変わりつつある中国の投資環境 貿易ニュース鹿児島 2006.10月号今回のレポートでは,最近の中国経済の動向と,少しずつ変わりつつある「世界の工場」中国の投資環境,特に労働市場環境についてレポートさせていただきたい。
最近の中国経済の動向
近年の中国の実質GDP成長率は,2003年:10.0%,2004年:10.1%,2005年:9.9%と約10%程度で推移してきているが,2006年に入ってからも,第1四半期(1月〜3月):10.3%,第2四半期(4月〜6月):11.3%と,高成長を維持している。全国31省のうち,23省が12%を超える成長率を示しており,これは中国政府の予想をオーバーするペースだという。
省別にみてみると,内モンゴル自治区:18.2%,江蘇省:15.4%,山東省:15.3%と続き,内モンゴル自治区に代表されるように,成長率上位の中に,これまでには見られなかった内陸部の省の名前も見られるようになっている。中国の経済成長が,少しずつではあるが,これまでの大陸沿岸部から,内陸部・地方部に及んできているということだろうか。
この高成長を支えているのは,「固定資産(設備・不動産)投資」と「輸出」である。固定資産投資額は,都市部に限ると2006年上半期で前年比(以下,同じ)31.3%増,輸出額は,同じく25%増というから驚きである。中国政府は,過大な固定資産投資は経済にゆがみを生じさせるとして,預金準備率と金利の引き上げや,不動産投資への規制など,その引き締め策を実施しているが,それでもなお,この数字である。
ちなみに内需の拡大幅を示す,「消費財小売額」も,今年の上半期13.3%増というから,投資と輸出の伸び率に比べると見劣りするものの,10%超であり,中国の経済成長の堅調さを物語っているといえるのでないか。
固定資産投資の動向
このうちまずは,固定資産投資の動向を詳しくみてみることとする。まず業種別の投資伸び率では,上位に,「食品」,「建設」,「電気機器」,「ゴム」,「卸・小売」が並ぶ。これらは,50〜80%の高伸び率であり,また,「輸送用機器(主に自動車)」など,以下に続く,多くの業種も30〜50%の伸びを示している。
余談になるが,「第1次産業」の投資伸び率は,2004年の20.3%,2005年の27.5%から,本年第1四半期は47.4%,同第2四半期40.2%と伸び率が高くなっており,都市部と内陸農村部の格差是正という中国政府の方針が,このような数字に反映されつつあるのかもしれない。中国の,農業を中心とする第1次産業の環境も,今後飛躍的に変化する可能性があるのかもしれない。
次に,省別の,固定資産投資伸び率(2006年上半期)では,吉林省:54.9%,安ホイ省:53.4%,河南省:46.3%,内モンゴル自治区:42.8%,河北省:41.9%と続く。
全体を眺めてみると,上海市:6.8%,北京市23.3%,広東省:17.2%など,これまで経済成長の象徴であった沿岸部の主要都市の伸びに,ある程度の一服感があるのに対し,これまで比較的後進であった内陸部,或いは東北部地域での伸びが目立つ(なお,都市部での伸び率の一服感には,地方政府による不動産価格調整策が,一部影響を与えていると思われる)。
三つ目に,固定資産投資の「主体」をみてみると,2005年の数字では,地場企業による投資が,全体の88%を占める。私はもう少し,外資系企業の割合が大きいかと思っていたのだが,約9割が地場企業とは意外であった。ちなみに,香港・台湾系企業の投資が全体の約5%,日本を含むその他の外資系企業が全体の約6%である。
また,外国からの直接投資をみると,2001〜2005年までは,件数,金額とも上昇していたが,今年の入ってからはマイナスに転じているようである。
輸出の動向
今度は,経済成長を支えるもう一つの主要因である輸出の動向をみてみる。
前述したように,中国から海外への輸出金額は,今年に入ってからも全国平均約25%と高い伸びを示している。製品別の伸び率では,本年第1四半期の数字を見ると,通信・音響機器:39.7%,電気機器:34.6%,金属製品:28.4%,アパレル:27.3%と続く。輸出についても,順風満帆に見えるが,全国平均の約25%伸び率を,過去の数字と比較すると,2003年の34.6%,2004年の35.4%という数字に及ばず,伸び率が鈍化してきているのも事実である。
伸び率鈍化の原因は,「中国からの輸出環境が転換点を迎えつつあるから」と言われている。
日本のポジティブリストに代表されるように,先進国を中心とした輸出相手国における環境・安全規制の影響や,各国との貿易摩擦,そして,一番の環境の変化は,「中国生産のコスト競争力が以前と比べると相対的に低下しているから」ではないかと言われている。
投資,特に労働市場環境の変化
これまで,中国の経済成長を支える主要因「固定資産投資」と「輸出」の最近の動向をみてきたが,これらを支える中国の投資環境,そのうち特にこれまで著しい成長をみせてきた沿岸部,都市部等の労働市場環境が,変化をみせつつあるため,以下でその変化についてみていきたいと思う。
賃金の上昇
中国の労働市場における賃金上昇の状況については,日本でもよく報じられているのではないだろうか。
具体的には,本年4月1日に天津市,同7月1日に北京市,深せん市,同8月1日に大連市,9月1日に上海市,広州市,東莞市において,法定最低賃金が引き上げられた。上昇率は,平均約20%に及ぶ。これにより,市場賃金のこれまでの上昇傾向にさらに拍車が掛かることは間違いない(勿論,これだけ上昇しても,単純に日本円に換算した場合は,日本ではとても考えられない安さではあるのだが)。
最近の上昇傾向で問題なのは,以前のように,管理職,事務職など,いわゆるホワイトカラーの高賃金が牽引する上昇ではなく,労働者,いわゆるブルーカラーの賃金の上昇によるそれであることである。よって,これまでの上昇以上に,「世界の工場」に集結した労働集約型産業などに及ぼす影響は,多大なものなのである。
以前私が,訪問させていただいた(労働集約型業種の)日系企業などでは,そもそも最低賃金以上での雇用を行っているため,最低賃金が上昇しても影響はない,という企業もあったが,最低賃金に近い賃金で,運営しているところが多い,台湾系・香港系の中小企業などは,さらなる安い賃金環境を求めて,中国内陸部,あるいはまさにチャイナ+1を実践して,ベトナムなどへの移転の動きも見られるとのことである。
労働集約型産業を取り巻く環境は急速に変化している。
ブルーワーカー不足
労働者不足についても,かなり深刻のようであり,最近のセミナーなどでも,中国華南地域の日系企業の方から,「一番の課題」という声を耳にする。
以前から,いわゆる管理職,マネジメントレベルの人材の確保の難しさは言われてきたが,最近のそれは,いわゆるブルーカラー労働者にも及んでいるようである。
元々中国は以前から,人々が高い賃金を求めて,企業を渡り歩くため,離職率が高い状況であるため,いつも一定数の求人を行っている企業が,地場,外資に限らず,多いようであるが,以前は,いわゆるブルーワーカーの求人に困ることはなかったのに,今はなかなか思通りいかない,という声が大きい。
要因の一つは,以前は湯水にようにあふれてくると言われていた農村部からの出稼ぎ労働者の減少。中国政府は,第11次5カ年計画でも,都市部と農村部の格差是正を柱の一つとして掲げているが,これから農村部のインフラを初めてとする投資環境や,また第1次産業の経営環境がさらに整備されれば,農村部の住民がわざわざ故郷を離れて,物価の高い都市部に出稼ぎにくる必要性が低くなるため,ブルーワーカー不足の状況は今後,益々悪化する可能性も高い。
労働契約法 制定の動向
労働契約法については,最近,日本でも制定の動きがあるが,中国も同様で,全国人民代表大会常務委員会が,本年3月20日にその草案を発表した。地場,外資を問わず,企業側から「原案どおり成立すれば,事業に極めて深刻な支障がでる」と言われており,他方政府側は,雇用の安定と,労働者利益の保護のため,ぜひとも成立させたいという意向である。
同法案の概要を列記すると以下のとおりである。
@ 就業規則の義務化
A 労働契約書締結の義務化
B 試用期間の短縮
C 労働契約解除の事前通知義務
D労働契約終了後の経済補償
一つ一つの項目の今回のレポートでの詳述は避けるが,この項目だけをみても,いかに同法が,「労働者保護」に重点をおいているかがわかる。
逆に企業の立場からみれば,これまで必要とされなかったさまざまな形での負担が新たに発生,企業コストが増加することになるため,法案成立,施行となれば,かなりのインパクトをもって,中国の労働市場環境に影響を与えるものと思われる。
労働契約法の制定は,勿論いい悪いの問題ではないのだが,生産コストの競争力をあげるか,さげるかといえば,当然さげるわけで,企業側からすれば大問題である。しかし他方で,これまでの中国の労働市場環境が,ある意味,当該労働者を犠牲(低賃金,悪環境 等)にした上で成り立っていたことも否定できず,特に出稼ぎ労働者が多い都市部では,雇用者の待遇に不満を持った彼らによる乱闘さわぎなどが報道されることも決して珍しくない。よって,企業側の論理だけをもって,同法案の成否を図るわけにはいかないであろう。
最後に
以上,変わりつつある,中国の労働市場環境の状況をみてきたが,これまでの中国の高い成長率を支えてきた固定資産投資や,輸出に大きな影響を持つ,労働市場環境が変化し,特に,大陸沿岸部の各市,各省都市部の生産コスト競争力が,これまでと比較して相対的に低下していくのは,今後のトレンドと考えていいだろう。
そして,それは間違いなく,固定資産投資や輸出に,また最終的には,中国の経済成長率に影響を及ぼす。しかし,労働市場の環境は,その経済成長に歩調を併せる形で変化するものであり,経済の原則からみれば,避けられないことともいえる。
最近の広東省などでは,産業・企業集中により悪化した環境への対策強化や,労働集約型産業を地方都市へ移そうとする産業移転対策などが始まり,いわば,経済成長の次のステージに移っているといえ,それは思い起こせば,高度成長時代後の我が日本が歩んできた道でもある。
産業移転についても,テクノポリス法などに代表される施策で,日本が地方への産業移転施策を進めたように今後の中国もこれまで比較的発展後進地であった都市部周辺や内陸部の省が,都市部からの労働集約型産業等の移転受け入れに動き出しているのである。
私は,今年7月,日本の三大自動車メーカーの工場が進出している広州市から,高速道路で約1時間30分という広東省中西部の地方都市:肇慶市を投資環境調査で訪問する機会があったが,同市などは,今まさに,外資誘致を重要施策の一つとして,積極的に進めている。高速道路などによる広州市や広州空港へのアクセスの良さ,安価な工業団地,また優秀で豊富な人材や,安定的な水,電気の供給などを売りに,両手をあげて企業の進出を待っているのである。
中国経済は,本年も通年通して10%程度の成長率を維持するであろうと言われている。しかし,成長の中味は,上述の労働市場環境の変化などに影響を受け,これまでの「一部沿岸部都市牽引型」から,内陸部や地方部を含めた「全体成長型」へ少しずつ移行していくのかもしれない。
〜ミニシリーズ 香港の食品市場情報〜
前回は,「日本食品の香港への輸出現況」,「香港消費者の動向」を説明させていただいたいが,今回は,日本食品が取り扱われている香港のスーパーマーケットや日本食レストランの現状をご説明したいと思う。
香港のスーパーマーケット概況
香港のスーパーマーケットは基本的に有力な地場系2社の複占状態である。両社は,香港各地のいたる場所のコミュニティの中心に立地し,全スーパーマーケットにおける売上の約80%を占めていると言われている。丁度,日本のコンビニの立地をイメージしていただければわかりやすいと思うが,香港の至るところで2社が競合し,同じ系列の店舗でも,かなりの近距離で立地している。
しかし残念ながら,当該2社は,あくまで中所得者以下の一般香港人を主な顧客としているため,どうしても割高になってしまう日本商品の取扱いは,価格的に競争力のある(香港でもそれなりに安い価格で販売できる)一部の商品(お菓子,ラーメンなど)に限られ,日本産農水畜産物などはまず見られない。
日系スーパーには,日本産果物などが並ぶ。
そして,上記2社が80%を占めた残りの20%をいわゆる「日系スーパー」や「高級スーパー」が奪い合うことになり,日本商品はこれらのスーパーでの取扱が中心となる。
具体的な数字では,食品売場をもつ日系百貨店が1社(2店舗),日系スーパーマーケットが4社(14店舗),香港系高級スーパーマーケットが4店舗といった具合である(18年9月現在)。
これらのスーパーに置かれている商品は,有力2社の商品と比べると,やはり割高であるため,私の同僚である香港人の女性(夫,子供2人あり)は日常的にはまず使わないと言う。
しかし,高価であっても製品の質や,食品に対して,安全安心などを求める高所得の香港人や駐在員などは,やはりこれら日系・高級スーパーを利用する機会が多くなるため,それらを顧客ターゲットして,日本の商品も販売されることになる。
香港のレストラン概況
一般的に,香港人は外食する機会が多いと言われている。証明できる数字がないのだが,いろいろな人の話を総合すると,どうやら事実のようである。なので,いわゆる外食産業の競争も激しいのだが,そういった中,日本食レストランは,香港で一定の地位を確率しているといってもよい。
少し古い数字で恐縮だが,2004年6月現在で,香港のレストラン数は,約1万件。そのうち,香港人のオーナーや,シェフによって経営されるいわゆる日式レストランを含めると日本食レストランは約630店舗ほどあるらしい。勿論,これらのレストランは,すべて現地調達の材料で,価格を抑えて提供するレストランもあるため,すべてがそうではないが,材料から日本のものにこだわり,レベルの高い日本料理を,それなりの値段で出す日本料理店も多いため,これらは,日本商品取扱先の対象となりえる訳である。
よって,日本の各都道府県が,香港などで商談会を行う場合などは,これらスーパーのバイヤーや,レストランのオーナー,シェフなどが売り込み先となり,中国本土と比し,極めて障壁が低く,また住民の所得水準も高い,魅力的な香港市場への挑戦権が奪い合われることとなるのである。