タイ・ラオスミッション報告@ 貿易ニュース鹿児島 2006.6月号はじめに
昭和60年7月1日の設置以来,21年目を迎えた県香港事務所は,本年4月の県庁の組織改編で誕生した「観光交流局かごしまPR課」の一員として新たなスタートを切りました。
私は,この4月,8代目の駐在員として,前任の鳥越哲駐在員と交替で,当事務所に赴任しました吹留 誠吾(ひいどめ せいご)といいます。
今後,2ヶ月に一度寄稿させていただくことになる本レポートは,まずは貿易協会の会員の皆様に読んでいただくわけですが,皆様におかれましては,今後よろしくお願いします。また,平成13〜15年度まで,旧・商工観光労働部工業振興課在籍当時に,おつきあいをさせていただいた皆様がいらっしゃいましたら,再びよろしくお願い申し上げます。
さて,皆様もご存じのとおり,香港と本県との間では,文化,スポーツ等によるさまざまな交流が行われており,これは香港の中国返還やSARSの大流行等の史実を乗り越え継続されてきたもので,まさに両地のきずなの深さを証明するものです。この4月に,これまでの交流の歴史があったからこそ実現した小学生同士のすがすがしいサッカー交流が実現したことは,新聞,テレビ等でご覧になられた方もいるのではないでしょうか。この交流の歴史の重みをしっかり受け止め,各種交流事業をより充実したものにしていくことは当事務所の重要な役割です。
他方で,今後はこれらに加え,当事務所が,観光交流局かごしまPR課の一員として再スタートを切ったこともまたしっかり受け止めた上での業務遂行も進めていきたいと考えております。つまり,香港のみならず,中国華南地域や東南アジア地域も視野にいれた上で,鹿児島をPRすること,多くの方に鹿児島を知ってもらい,愛してもらい,足を運んでもらい,また鹿児島の農水産物,製品等を香港で食し,利用してもらえるような環境を整えること。これらを実現するための業務にも,これまで以上に力を入れて参りたいと思います。県庁のすべての部署がそうであるように,当事務所も会員の皆様や県民の皆様のものでありますので,ぜひとも積極的なご活用をよろしくお願いします。
タイ・ラオスミッション報告
さて,私にとって第1回目のレポートとなる今回は,5月18日から20日までの日程で開催され,参加した独立行政法人日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」という。)主催の「タイ・ラオス投資環境調査ミッション」の報告をさせていただきたい。
2泊3日の強行日程ながら,さすがに世界のさまざまな国・地域に情報・人材ネットワークをはりめぐらされているジェトロならではの,内容の濃いミッションとなったので,第1回目の今回にタイを,次回にラオスをと,2回に分けて報告をさせていただきたい。
まずは,同ミッションの目的であるが,域内の経済統合,対外的な自由貿易化が急速に進展するASEAN地域の中心であるタイの現在の経済状況の把握,及び日系自動車関連企業が集積する同地における,当該日系現地法人の実態を把握することが1つ。
また,自動車関連産業や,日系企業に拘わらず,さまざまな外資企業(特に製造業)がその労働力を求め,企業集積がなされたタイであるが,その経済成長に伴い,やはりご多分にもれず人件費の向上傾向等もみられ,以前と比べると,人材確保が難しくなってきているらしい。そこで,さらなる低賃金等の労働市場を求め,隣国ラオスへ進出する(委託加工先を求める等)日系企業が存在するということであり,ラオスが今後,労働集約型企業等にとって,良質な労働を提供する市場となりえるのか等を含めた対ラオス投資環境調査がその2つ目である。
「低賃金等の労働力を求めた結果による企業集積」→「企業集積による当地の経済成長」→「賃金の上昇」→「労働市場としての魅力の低下」→「周辺地域に魅力的労働市場を求める」というようなサイクルは,また中国華南地域においても同様な動きがあると言われており,今後の中国経済の動向をさぐる上でも,参加の意義があると判断した。
タイの概況
まずは,ジェトロ・バンコクの職員から受けた説明等を基にした,タイの概況は以下のとおり。
・人口 6,335万人(04年末) →日本の約半分
・面積 51.3万キロu →日本の約1.4倍
・国内総生産 1,633億ドル(同) →日本の3.5%
・1人あたりのGDP 2,521ドル(同)→日本の6.9%
やはりこうして1人あたりのGDPなどをみるとタイもまだまだの感がある。
ご存じの方も多いと思うが,タイには世界最大規模の日系企業の集積がなされている。指標の1つとなる日本商工会議所(以下「JCC」という。)会員数は1,251社(2006年1月現在)で,1,464社(2005年10月現在)の上海に次いで第二位。上海の会員数が,急速な経済成長に伴い増加するまでは,第一位であった(ちなみに,我が香港は611で第5位)。また,ある調査によれば,在タイ日系企業は少なくとも6,000〜7,000社だといわれているらしい。当然,大きな雇用も担っており,JCC会員企業だけでも総従業員数で約43万人(鹿児島県の人口の約4分の1)というから驚きである。またタイにとって日本は最大の投資供給国であり,最大の貿易相手国。世界的にみると現在の投資先としてのトレンドは,一段落したとはいえ当然中国であるが,そういう中,日本からタイへの投資は伸びており,こうしてみると日本とタイとの経済的なつながりは本当に大きいのである。
特に,今やタイの主力産業である自動車産業の生産・販売・輸出の9割が日系企業による,とのことである。トヨタ,日産,ホンダ,三菱自,マツダなど,自動車大手の工場が出そろい,今後も生産・販売体制強化を計画している企業も多く,いかにタイが自動車産業等製造業において魅力的な環境にあるかが伺われる。当然街中には,日本と同じように多くの日本車が当たり前のように走っているし,これらの企業の看板もよく目につく。
自動車関連 現地法人訪問
今回のミッションで訪問させていただいた「Honda Automobile(Tailand)Co.,Ltd(ホンダオートモービル(タイランド)カンパニー・リミテッド)」は,いわずとしれた本田技研工業株式会社のタイ現地法人である。
短期間労働者(期間工)を含めた従業員数は,3,259人,同社の代表的な車種であるアコード,シビック,CR―Vなどを年間12万台生産しており,その約4割が日本を含む海外への輸出とのことである。
また,同法人に材料等を供給する172のサプライヤーのうち,75%に当たる129が日系サプライヤーであるとのことなので,同地には,大手メーカーの進出に呼応し,多くの関連中小企業等が日本から進出していることを伺わせる。
責任者の方による概要の説明の中では,同社がタイに進出し,現在も重要な拠点の1つとして考えている理由として,以下の点が挙げられた。
@政治が比較的安定していること,A対日感情がよいこと,B国内に際だった宗教的対立がないこと,C労働条件(賃金が安いこと),D争いを好まない国民性。
おそらく一番の理由は,Cと思われるが,進出当初はともかく,長い目でみると当然政治的な安定や,対日感情,国民性なども,日系企業が海外戦略を構築する上での,重要なファクターになるのだろう。
また,説明の中でいくつかの今後の懸案要素もあげられたが,その中で特に印象的であったのが,やはりタイでもだいぶ人材の確保がむずかしくなってきているとの話である。
経済産業省の通商白書(2005版)に掲載されている「現地(海外)日系企業が評価する各国の投資環境調査」の「労働力コスト」「労働力の質」の項目においては,今なおベトナムと並び,タイは,上位を保っているが,現場としては,労働者の定着率の悪さや,労働条件等への要求の高まり,技術者人材の不足等を非常に懸念しているとのことである。
また,特に深刻なのが技術者人材の不足であり,このような状況への対策として,ライバルとなる日産やトヨタ等の現地法人と連携し,役割分担をした上で,技術者人材の育成のためのプログラムをスタートさせようとしているとのことであった。
現地法人の現況の説明を受けている風景
実際の企業(現場)からだされた人材確保がむずかしくなってきているとの話,及びその状況を克服するために同業他社とスクラムを組んでいるとの話,を興味深く聞いた。
まだまだ余裕はあるのかもしれないが,これまで魅力的な労働市場であったタイもその経済成長に歩調を合わせる形で,その絶対的な魅力は今後、徐々に薄れてくるのかもしれない。これは,現在同じ状況にある中国の一部やベトナムでも同様であるかもしれない。
さらに,しのぎをけずるライバル同士であっても,必要と判断すれば時にはスクラムを組んで,お互いがメリットを享受し,障壁をのりこえようとする手法。ある意味,国内とは別の要素が加わる海外においては,さらにこのような手法で乗り切らなければならないシチュエーションが多いのかもしれないと感じた。
当然,ISOも取得済み
説明の後に実際見学した工場は,非常に清潔感があり,20代〜30代くらいにみえる工員がもくもくと仕事をこなしていた。また,新入社員の研修なのか10代後半〜20代前半くらいの10数名の団体が現場責任者らしき人から説明を受けていた。掲げられている日本語とタイ語による目標や掲示物には,「(社員に対し)日系企業の一員であることの自信と誇りをもってほしい」「地域をコントロールするのではなく,地域と共生しよう」という会社の志を感じた。
説明者の方がいわれた「利益追求ばかりではなく,地域(の人々)に愛される企業にならなければ,海外で長期間やっていくのは難しい」という言葉。大企業であろうと,中小企業であろうと,一個人であろうと,海外で生活し,ビジネスをし,生きていく者にとって,常に忘れてはならないことだな,と思った。
国王の写真と共に,両国語で,目標を掲示