ラオスにおける投資環境調査 貿易ニュース鹿児島 2006.8月号前回,予告させていただいたとおり,今回のレポートは,5月18日から20日までの日程で開催され,参加した独立行政法人日本貿易振興機構主催の「タイ・ラオス投資環境調査ミッション」のラオス調査における報告をさせていただく。
なぜ今,ラオスか
今回のラオス調査の目的は,前回のレポートでも述べたが,再度,以下のとおりである。
自動車関連産業や日系企業に限らず,さまざまな外資企業(特に製造業)がその安価な労働力を求め,企業集積がなされたタイであるが,その経済成長に伴い,やはりご多分にもれず人件費の向上傾向等もみられ,以前と比べると,人材確保が難しくなってきているらしい。
そこで,さらなる安価な労働力を求め,隣国ラオスへ進出する(委託加工先を求める等)日系企業が存在するということであり,ラオスが今後,労働集約型企業等にとって,良質・安価な労働力を提供する市場となりえるのかどうか等の調査を行うのがその目的である。
タイからラオスへ
5月19日にタイ・バンコクの宿泊先を早朝6:00時に出発し,8:20発のフライトで,約1時間10分ほどでラオスビエンチャン空港に到着。ビエンチャンは,タイとの国境近くにあるラオスの首都である。
到着した空港は,私が今まで経験した海外の国際空港とは風景を異にし,とても牧歌的な雰囲気で,どこかほっとする印象である。海が近くにないことを除けば,本県の奄美空港に,規模,印象ともとてもよく似ている感じである。
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ラオス ビエンチャン空港
ラオスの概況
まずは,在ラオス日本大使館の担当職員の方から,タイの概況等についてご説明を受けた。
同氏は,ラオスでの勤務が2度目でこれまでの在ラオス歴は合計6年。いわゆる外務省のラオススペシャリストといっていいだろう。その話しぶりからもラオスへの愛着が,にじみ出ている。ご家族も一緒のご赴任とお聞きして,「ご家族の方は,ラオスでの生活はどうですか(たいへんではないですか)」との私の余計な質問に,「妻もラオスが2回目なので(特に問題ない)」とのこと。奥様とは,奥様が青年海外協力隊員としてラオスにきていた前回の赴任時にお知り合いになられたとのこと。私など,香港事務所への赴任がなければ,おそらく学校でならった東南アジアの国の一つ,という印象程度でおわったであろう同国でも,いろいろな形で同世代の日本人が頑張っているのだなと思った。
ラオスは,正式国名「ラオス人民民主共和国」。面積は約24万kuで日本の約0.6倍で本州程度の大きさ,うち森林が約8割という。
人口は約560万人で,日本の北海道程度。約50とも言われる少数民族からなる多民族国家である。
首都ビエンチャンにはうち67万人が在住し,本県鹿児島市より約7万人多い程度である。1人あたりのGDPは2004年の数字で,428米ドル,ベトナムよりも約120米ドルほど低く,タイの約6分の1ほどである。
余談だが,私が宿泊したホテルは首都の中心部にあるそれであったが,空港から同ホテルまでの移動の際や,またホテルの部屋から目に飛び込んでくる景色は,はっきり申し上げると「ここが首都なの?」というものであり,いわゆるGDPの低さを裏付ける印象ではあった。
政治環境は,ラオス人民革命党による一党独裁。しかし,いわゆる一党独裁の暗いイメージはなく,国民の一党独裁への不満や,変革への欲求は,ほとんど感じられないという。情報の閉鎖や操作も概して少なく,政治状況は安定しているといえるとのことである。
最近の経済状況は,6%程度のGDP成長率を続けるなど順調に拡大している。勿論,貧富の差はあるため,経済的な貧困削減は,国家の課題の一つではあるが,貧困もいわゆる「明日の食料に困る」というたぐいの貧困ではなく,国民も,「もっと裕福になりたい(もっと儲けていい生活をしたい)」と感じている人たちはそれほど多くないのではないか,ということである。
外交関係でいえば,勿論これまでの歴史的な経緯から,北朝鮮やキューバなど社会主義諸国との関係を維持しつつ,アメリカなどの西側諸国との関係も拡大している。さらに,国境を接する中国は,近年,経済協力や投資分野で,特にラオス北部への進出意欲が顕著(虎視眈々とラオスをねらっている印象)らしい。しかし,中国人とラオス人の国民性はかなり違うらしく,その違いがビジネスを共に進めていくには,障害になる可能性もあるという印象らしい。
日本とラオスの関係でいえば,2005年に外交関係樹立50周年を迎え,大きな懸案もなく,友好関係を継続。伝統的に親日国で,日本語学習者が現在500人,ラオスから日本への国費留学生も累積で合計500人という。
両国間の貿易状況は,ラオスからの輸出は,木材製品や手工芸品,衣料品など。日本からの輸入は工業製品や建設機材,原料などで,それぞれ320万米ドル,390万米ドル規模である。
興味深い日系企業の進出状況であるが,駐在事務所を有する企業が19社,日本資本が入っている合弁企業数が18社,これらの企業駐在員やその家族などによる在留邦人数は436名とのことであった。
タイ日系企業のラオス委託加工先工場訪問
訪問したのは,矢崎総業株式会社のグループ会社であるタイの現地法人「Thai Yazaki Group(タイ・ヤザキ・グループ)」の,ビエンチャンにある委託加工先企業の工場である。
矢崎総業(株)は,1962年に初の海外進出でタイに現地法人を設立。タイには4つのグループ現地法人があり,主にワイヤーハーネス製造を業務としている。同社は,製造過程において,タイ国内を含め,5つの外注先をもち,うち一つが今回訪問させていただいた,「Vientiane Automation Product Ltd.」である。
説明していただいたタイ・ヤザキ・グループの一つ「Thai Arrow Product Co.Ltd.」の担当者の方(日本人)からは,ラオスに委託加工先を求めた理由として,やはり労働コストの問題が一番との説明があった。タイ,特にバンコクの人件費はここ2年ほどで,ジワジワ上昇し,日系企業においても労働コストの上昇が課題となっており,その点においてラオスは,一定の教育を受けた優秀な人材を集めやすい環境にあるとのことであった。
委託加工先企業の事務所
タイの労働コストの問題でいえば,国際協力銀行が発表している「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(2005年11月)において,タイは,有望事業展開先国の第3位(2004年は第2位)であり,有望である理由も,「安価な労働力」が第1位(第2位は市場の成長性,第3位は政治・経済の安定性)であり、まだまだその労働市場を魅力的と認識している企業が多い。しかし,他方,同調査において,今後の課題(懸案事項)として,「管理職クラスの人材確保が困難」や「労働コストの上昇」があげられており,既に現地企業にはその影響が出ているということであろう。
特に労働コストの上昇の影響をまともにうけてしまう労働集約型産業は,神経質にならざるを得ないのは当然である。
担当者の説明によれば,当然,ラオスだからこそのデメリットもあり,現地調達ができないために生じる部材等の運送費,またさらに完成品の運送費等を考慮すると,最終製品はタイでの製造と比べ,1割程度しかコスト減にならないという。
しかし,さきに述べたように,識字率の高さやその真面目な国民性から,優秀な人材の確保がしやすいという点,またバンコクの外注先と比較し,極端に低い離職率(ほとんどやめない)など,それでも進出するだけの価値があるとのことである。(ちなみに中国華南地域などでは,ワーカーの離職率が年率で20〜30%は珍しくないと言われている)。
見学をさせていただいた工場だが,工員のほとんどは若い女性であった。手先が器用であることや,細かな作業を繰り返す忍耐力が要求されるその労働内容には,女性の方が適しているという。
応対してくださった委託加工先企業の社長(ラオス人)も誠実な人格がにじみ出るような対応をしてくださった。ヤザキ社の担当者の方に寄れば,「当初は,この社長に,金の話をするのは心が痛む感じがあった」とのことである。つまり,社長であっても,それほどお金儲けには興味がなく,お金の話はどちらかといえば卑しいこと,と考える国民性とのことなのである。今でもこの社長の夢は,自分の稼いだお金で,自分の地元に学校をつくることとのことであった。
今回のミッションの中で,タイやラオスと,ここ数年,投資先として最も注目されている中国とを比較して,このような話をきいた。
「中国への進出企業や投資の件数は確かに今多いだろうが,進出した企業等の定着率はどうなのであろうか。タイには多くの日系企業が進出し,その歴史も古いが,進出した企業の定着率はとてもよい。これは,タイ人の国民性も含めて,日系企業や日本人が付き合いやすい環境がタイにあるからだと思う。ラオスはインフラなどまだまだであるが,その国民性は日本人の感性に近く,ビジネスがしやすい環境という意味では,タイと同じ。転じて,中国はどうなのだろうか」。
前回レポートでも述べたが,海外への企業進出は言うに及ばす,海外を相手にビジネスを行う場合は,国家間の政治的な影響や,同国国民が持つ国民性などさまざまな要素の影響も受けるものである。
中国は,安価な労働力,土地などにより,「世界の工場」として注目を浴び,最近は「最大の市場」をねらって,各国企業が注目しているといえるが,日本人からみて「ビジネスの相手方」としては,つきあいやすい相手なのか否か。興味深いところである。
所 感
前述した国際協力銀行の「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(2005年11月)の有望事業展開先国において,ラオスは現時点で,その20位以内にも登場していない。1泊2日の滞在ではあったが,そのインフラ整備の遅れは,素人目からみてもまだまだの感も強く,とても「チャイナ+1」或いは「タイ+1」の候補地となるには,まだ時間がかかるのではないかというのが正直な印象である。
しかし,ここでもビジネスを営む日本の企業は存在するのである。私が感じたのは,おそくらヤザキグループ社も長年のタイでのビジネス経験があったからこそのラオス進出だっただろうということである。タイにいたからこそ,ラオスに進出するために,必要な情報を入手することも,調査することも可能であったのではないだろうか。
海外でのビジネスは,ある程度のリスクを覚悟して先発進出し成功した企業が,多大な見返りを受けるもの,と言われている。スタートがあるから,次のステージ,ステップがあり,成功もある。今海外ビジネスで成功している多くの企業にも,不安と試行錯誤で満たされていたその企業の「スタート」があったであろう。そのスタートは,新聞やつきあいのある金融機関,産業支援機関などからの情報入手だったかもしれないし,行政やそれに類する団体,金融機関等の主催による経済ミッションへの参加だったかもしれない。
そのような,企業それぞれのさまざまな形でのスタートがあってこそ,今の状況があるのであろう。勿論,文化や国民性を乗り越えなければならない海外ビジネスは飛び込んでからもたいへんであることは間違いないが,まず思い切って飛び込んでみなければ,次のステージも成功もない。
〜ミニシリーズ 香港の食品市場情報〜
今回から,ミニシリーズとして,香港の食品市場情報をお届けさせていただきたいと思う。その規模等により,今中国,特に上海市場が日本から最も注目されている市場の一つだと思われるが,規模ではかなわなくても,上海市場にはない魅力が香港市場にもあると思われるので,香港食品市場の情報を少しずつではあるが紹介させていただきたい。
【日本食品の香港への輸出】
香港側からみた食料品輸入は,項目別では魚介類,肉類,果実・野菜が多く,全体の67%を占める。
国別でいうと,1997年の香港返還以降,中国への依存度が高まっており,97年には米国からが第一であった輸入額を,98年には中国からの輸入が逆転し,以降その差は,拡がる一方で,2004年は,米国の倍以上の輸入が中国からなされて,全体輸入額の約24%を占める。
日本は上記2国,及びオーストラリア,タイに続いて,香港からみると5番目の輸入国である。
逆に,日本からみると,香港は米国に次ぐ世界第二位の輸出国である。日本からの輸出産品としては,おおまかに農産物,水産物が半々といったところであり,品目別にみると貝柱,ホタテ貝,魚肉ソーセージが上位3品目となっている。
福岡県産や栃木県産のイチゴや,青森県産のりんご,鹿児島県産の焼酎なども日系のスーパーマーケットでは結構よく目にするが,全体からみれば,その量はまだまだ小規模のようである。
【香港消費者の傾向】
香港人は,日本人と比較して,量をよく食べる,外食機会が多いなど,家計全体の支出において食料品が占める割合が高いと言える。「香港人はたべるのが好きだから」「たくさん食べるから」という話はたしかに在香港歴の長い日本人からもよく聞かれる。食に関しては,興味も旺盛だし,比較的どん欲といっていいのかもしれない。
また,香港人の2大関心事は,「お金儲け」と「長生き」などと言われるほど,健康,及び健康に貢献する食品にも,関心が高く,健康は新たな品目を売り込む際の一つのキーワードといわれている。
さらにさきに述べたように,中国産品の輸入拡大に伴い,食の安心安全へのニーズも高まっている傾向にあると言われている。確かに香港において見聞きするニュースの中には,中国産品目の購入をためらわざるを得ないようなニュースもあり,一定程度の所得クラスになると,値段の安さより安心,安全を優先する世帯も増えつつあるとのことである。
「食の安心,安全」については,国内の食料供給基地である本県は,比較的先進的な取り組みの導入を進めており,また健康を売り物にした商品も結構あるので,勿論,綿密な市場調査が必要なことは前提としても,その売り込み方法等によっては,香港人好みの農水産物や加工品,その他食品が鹿児島にも潜在しているような気がするのである。