FROM SINGAPORE NO 6 
  「シンガポールの観光政策
(財)自治体国際化協会シンガポール事務所 伊瀬知 強
貿易ニュース
2004.2月号掲載
 昨年2003年のシンガポールを振り返ってみますと、新型肺炎SARSに泣かされた1年であったと言えます。観光・ホテル業界を中心に大打撃を受け、ホテルの稼働率は一時期10%代まで落ち込みました。しかし、そこから徐々に回復してくるあたりは、さすがはシンガポールです。今回はそんなシンガポールの観光政策にスポットを当てたいと思います。

シンガポールの観光政策
1 概要
 シンガポールの玄関口であるチャンギ空港に降り立つと、まず広々として清潔な印象を受ける。入国審査や税関も簡単にパスでき、タクシーに乗り中心地まで行く途中、美しいブーゲンビリアや街路樹で「ガーデンシティ」を感じることができる。大きな渋滞にあうことはほとんどなく、中心地まで30分足らず、タクシー代も日本に比べて格安である。大方の人はシンガポールに好印象を持つであろう。
 現在のシンガポールには年間700万人以上の観光客が訪れており、アジア有数の観光大国となっている(2001年約752万人、うち日本人約76万人)。この国の観光スポットといえば、セントーサ島、ジュロン・バードパーク、ナイトサファリなど政府主導で作り上げられてきた大型のテーマパークのほか、チャイナタウン、アラブストリート、リトルインディアといった伝統文化を残す地域、あるいはオーチャードロードなどのショッピングエリアが挙げられる。
 しかし、国土が狭く、大自然や歴史的建築物などの観光資源が豊富ではないにもかかわらず、なぜ観光客がここまで増加し、「観光立国」に成長したかは、シンガポール政府観光局(STB)を中心に国を挙げて、さらにはアジア域内の周辺諸国を取り込んだ各種の観光振興施策が行なわれてきたことよるところが大きい。

  シンガポール川沿いには「昔のシンガポール」をイメージ
  させるブロンズ像がさりげなく置かれている。


2 最近の主な政策
 シンガポールの観光実績は、緑豊かな都市環境、一流ホテルの集積、東南アジアの中心という地理的優位性、空港や道路などの交通機関の便利さ、英語の普及、治安の良さ、免税店におけるショッピングなどといった魅力によって飛躍的に発展してきた。
 しかしながら、近年周辺諸国においてもインフラ整備やリゾート開発が進み、免税のメリットも貿易の自由化とともに薄れ、自国経済の成長に伴う国内コストの上昇やシンガポールドル高が進むなど、これまでシンガポールが持っていた優位性も徐々に下がっており、観光業界を取り巻く環境は厳しくなっている。
 このような中、現在シンガポールが行なっている主要観光政策を2つ紹介したい。

(1)「ツーリズム・アンリミテッド構想」(Tourism Unlimited)
 シンガポール観光施策の骨格となっているのが、1994年に打ち出された「ツーリズム・アンリミテッド」構想である。これはシンガポールの開発戦略のスローガンとなっている「シンガポール・アンリミテッド」構想の趣旨をそのまま観光産業に持ち込んだものであり、近隣諸国への観光部門の投資促進と観光資源の開発が重視されている。
 同構想は、「世界をシンガポールへ」及び「シンガポールを世界へ」という2つのスローガンから成り、国内の観光産業の競争力強化と国外の観光資源の活用がうたわれている。
 このうち「世界をシンガポールへ」とは、世界の観光関連企業に対し、シンガポールを新しい観光商品のアイディアの実験場として利用してもらい、その後、その商品の近隣諸国への輸出を促進するというもので、シンガポールをアジア域内におけるビジネス基地とする戦略を応用したものである。STBは、この目的のために世界の観光関連産業をターゲットに、シンガポールへの投資及びアジア域内の拠点としての支店・事務所設立を働きかけている。
 もう一つの「シンガポールを世界へ」とは、国内企業に近隣諸国への観光投資を奨励し、シンガポールに欠けている自然・リゾート等の観光資源を近隣諸国において開発し、シンガポールの大都市としての魅力と組み合わせることによって新たな観光商品を生み出し、シンガポールの観光客増加を図るというものである。このコンセプトに基づき、STBは通商産業省及びその傘下の法定機関である経済開発庁、貿易開発庁とともに、各国との観光開発協力合意を締結し、政府レベルでの観光開発プランの策定を行っている。また、民間部門に対しては、近隣諸国における観光開発のためのミッションを組織し、投資の奨励を行なう等の活動を行なっている。

(2)「国家観光計画」(Tourism21)
 STBは、1996年7月に「シンガポール・アンリミテッド」を実施計画化したものとして、向こう10年間の観光促進計画「国家観光計画」(Tourism 21)発表した。これは、1995年に714万人であった来訪観光客数を2000年には1,000万人に増加させるとともに、観光収入を116億シンガポールドルから160億シンガポールドルへ増加させ、シンガポールを21世紀における世界の観光首都(Tourism Capital)とすることを目標に、次の6つの戦略を掲げたものである。

@「観光」の再定義
 シンガポールを観光地として位置付けるのみでなく、観光関連ビジネスの中心地として、また、アジア域内観光のハブとして位置付け、大局的な観点から観光産業の振興を進める。

A観光商品の再構成
 既存の観光アトラクションの再編成や再開発を行なうもので、この中には国内各地にそれぞれのテーマを与え、これに従った観光開発を行なう計画や、各種イベントの育成、体験型ツアーの計画、旅行者向けスマートカードの開発などを進める。
(主な具体策)
○チャイナタウン、シンガポール川周辺、オーチャードロード、リトルインディアなど11のゾーンの地域特性を勘案し、テーマ性をもった魅力ある観光ゾーンとして再開発する。
○1年中シンガポールを楽しんでもらうために、芸術、文化、ファッション、グルメ、ショッピング、スポーツなど魅力あるイベントを定期的に開催し、リピーターの獲得を図る。

B産業としての観光の開発
 観光アトラクションやクルーズ、イベントなどの集客に直接関わる産業のみならず、旅行業者、ホテル業界等の関連産業を含めた産業郡単位での開発を目指すもので、他省庁の政策の活用などの連携を図りつつ、情報技術の活用、観光産業に関わる人材育成などによる事業効率化など、広範な開発を進める。
(主な具体策)
○観光関連業者の新商品の開発・サービスの向上に向けた投資を奨励するため、必要な資金の一部の補助、税制面での優遇策などの支援、土地売買の制度や免許取得手続きの見直しなどを行なう。

C新しい観光空間の創出
 シンガポールの観光ハブ化を目指し、アジア域内への観光開発投資を促進するための政府間提携やミッションの組織、シンガポールを起点とした近隣諸国ツアーパッケージの開発などを進める。
(主な具体策)
○インドネシア、中国、ベトナム、ミャンマーなど近隣諸国でのホテルやリゾート開発について、経済開発庁や貿易開発庁と共同でミッションを編成したり、各地域を対象とした観光投資セミナーの実施などを行なっている。また、現地政府との観光提携や、観光誘致のためのアドバイス提供なども行なう。

D協力体制の強化
 異なった業種を含む観光産業郡全体の発展、近隣諸国への観光投資の促進を図るために、政府間協力、他省庁との協力関係の強化などの省庁間協力、政府・民間部門の相互協力、民間部門内での業界間協力を勧め、異なった部門・部局が一堂に会する評議会などの設置を進める。

ESTBの役割強化
 調整機関としてのSTBの役割を強化するとともに、観光資源センターの業務充実を通じた観光関連産業情報や統計情報の提供強化を進める。また、民間部門との共同によるマーケティング、観光パッケージの開発、インターネット等の活用なども進める。
(参照:『シンガポールの政策』(財)自治体国際化  協会シンガポール事務所、2001年)

最近のシンガポール

1 シンガポールに新登場 逆バンジージャンプ「G−MAX」
 2003年11月19日、何かと規制の厳しい当地シンガポールでも、新たな娯楽・観光振興の呼び物として逆バンジージャンプ「G−MAX」が登場した。これは、1995年にニュージーランドで発明された「究極のスリルマシーン」で、高所から飛び降りるバンジージャンプの逆バージョン。全長35mの鉄塔2本に乗客を乗せたカプセル(3人乗り)をコードでつなぎ、空高く打ち上げる。打ち上げ時の体感重力は、宇宙飛行士がロケット打ち上げ時に体感するものとほぼ同じだそうだ。
 ちなみに料金は1回30ドル(約1,920円)。しかし、実際にチャレンジしてみようとする人はあまりいないようだ。
(参照:「星日報」2003年11月24日号)

2 シンガポールにマッチ 10分10ドル散発「QB House」
 日本からシンガポールに上陸し、着実に収益を上げ、店舗数を拡大している理容店「QB House」についてご紹介したい。
 「QB House」の特徴は、その簡略化されたプロセスにある。まず、店内自動販売機でチケットを購入するが、これには10ドル(約640円)紙幣のみ有効。両替機はなく、スタッフも両替には応じない(スタッフは「カットのためにいる」という考え方)。順番を待つと、自分の番となる。「Just Cut」の広告どおり当店でやってくれるのはカットのみ。シャンプー、髭剃り等はなく、日本の理容店でよくやってもらえるマッサージなどはもちろんない。カットが終われば「吸い取り機」で切り取った髪の毛を吸い取ってもらえるので、不快感はさほど残らない。所用時間は10分程度。仕上がりは決して上手いとは言えないが、「値段の割にはよい」という印象が残る。
 もともとは、頻繁に理容店に通っていた経営者が「無駄」と思えるものをすべて省略し、その分料金及び主要時間を低く抑えることをコンセプトに起業したのがこの「QB House」のようだ。客層も日本人以上にシンガポール人が多く(意外にも女性客が多い。)、「早い安い」がシンガポール人気質にマッチしているようである。

  シンガポール人気質に合っている10分10ドル散発「QB House」。
  店内は「企業秘密」のため撮影禁止であった。


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