| 中国での知的財産権をめぐる諸問題 |
貿易ニュース鹿児島2007.7月号
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| 中国は,ご承知のとおり,偽物天国である。ブランド物の時計やバッグ,財布,キーホルダーから衣類,靴,スポーツ用品,電化製品,アルコール類,パソコンソフト,DVD,CDまで,ありとあらゆる物の,そっくりそのままのコピー商品,デザインを一部変えただけの模倣品,ソフトを違法コピーした海賊版が街中に氾濫している。先のゴールデンウィークには,北京の国営石景山遊園地がディズニーキャラクターを模倣しているというニュースが,中国における知的財産権の保護対策の不十分さを示す象徴的な出来事として,世界中のメディアが一斉に報じたのが記憶に新しいところである。 今回は,中国において知的財産権が侵害されている現状とその対策について,報告したい。 1 コピー商品の現状 時計やバッグ,財布など有名ブランド品を全く同じように再現したコピー商品が市場に幅広く出回っていることは,中国における知的財産権の侵害被害が深刻であることを示す典型的な現象である。かつては,韓国がコピー商品の生産基地として有名であったが,中国が取って代わって久しい。今や世界中で販売されているコピー商品の6割は中国製とも言われている。 偽物市場として観光客にも有名だった上海の襄陽路の市場は,市街地再開発計画のため昨年6月に姿を消したが,そこにいた業者は場所を変え,営業を続けている。政府から業者に斡旋された浦東地区の地下鉄2号線上海科技館駅の地下ショッピングモールへは,襄陽市場から多くの業者が移転・入居している。新しいショッピングモールは広く,明るくて清潔である。が,そこには,相変わらずコピー商品が並んでいるのである。このような店舗は上海市内の至る所にあるし,店舗を構えていなくても,夕方になると,街のあちこちにコピー商品を販売する露店が並んでいる。中国に来たことのある人は誰でも,カタログを片手にした中国人から,たどたどしい日本語で「ロレックス安いよ」とかいうような言葉をかけられたことがあるだろう。南京路や淮海路などの繁華街では,外国人と見るとのべつ幕なしに声をかけてくる。これらの店では,購入者も明らかにコピー商品であることを認識した上で購入する確信犯であるが,大手のスーパーやアウトレットショップでもコピー商品が販売されていたというニュースも報じられており,正規品と誤認して購入してしまう可能性も十分あり得る。 また,上海には日本人を対象にしたスナック等も多く,それだけ競争も激しいわけであるが,フリーペーパーを見ていると,「4名様来店でボトル1本サービス」というような広告が目につく。全部がそうでは無かろうが,これらにはボトルの中身を入れ替えた偽酒が多いということである。安酒に替えているだけならまだいいが,なかには密造酒を入れており,それを飲んで体調不良になったという話も聞く。まさに「ただより高いものはない」の世界である。旅行者や出張者の中には広告につられて行く人もあるだろうから,お気をつけあれ。 ![]() 堂々と看板を掲げるコピー商品を販売する店舗 2 模倣品の現状 世界的に認知されている有名な製品のデザインや名前を一部変えただけの模倣品も数多く出回っている。こちらは,ブランド製品とは異なるオリジナルだと主張しているケースがほとんどである。HONDAを真似たHONGDAのバイクやiPodではなくIPODと名付けられた携帯音楽プレーヤーなどがその例である。 中国語でもふりがなや発音記号に相当するピンインというアルファベット文字があるが,「轟達」という漢字をピンインで標記すると,HONGDAとなり,これの発音がまさに「ホンダ」なのである。この漢字の意味するところについても,「高性能エンジン」というようなニュアンスがあり,それなりに説明がつく。ある意味感心してしまう。HONGDAのバイクは,中国はおろか,東南アジアなどにも輸出されるようになり,さすがに,本家のホンダも放置しておくことはできず,裁判に訴えたところである。歴史も実力もある世界のトップ企業が相手では,勝負にならなかったようで,裁判では,ホンダの訴えを認め、生産者である重慶力帆に対して「HONGDA」の使用差し止めと147万元(約2,200万円)の賠償金支払いを命じている。それでも,同社はHONGDAブランドの販売を通じ,中国でも大手の二輪車メーカーに成長し,今では自動車事業にまで進出し,ベトナムに工場を建設するなど,海外進出にも積極的である。まさに,知的財産権を侵害しながら技術を高めていった中国企業の象徴的な存在である。 3 海賊版の現状 中国では,日本のようにテレビ番組を録画するビデオデッキやハードディスクレコーダーは普及していない。ほとんどがDVDを購入して楽しんでいる。上海でのDVDプレーヤーの普及率は93%という統計もある。この高い普及率を背景に,DVDについては,海賊版が横行している。 DVDやCDを販売する店は非常に多く,○○音像などの名称で,街中の至る所にある。価格をみれば,ほとんどが1枚10〜20元で,ドラマの全話が入ったセット物も並んでいる。以前は映画館で隠し撮りしたような時折人影が映るようなものであったが,最近のものはデジタル化されており,マスターから高品質のまま,そっくりコピーできるようである。中国の物だけでなく,ハリウッド映画も数多くタイトルが並んでいる。中には,劇場で公開された直後の新作もある。なるほど海賊版による損害は計り知れないことが想像され,アメリカが中国に対して腹を立てるのも,非常に理解できる。また,日本の映画やテレビ番組の最新のものが音声は日本語のまま,中国語字幕がついて多数販売されており,価格も安いので,日本人客もかなりいるようである。これだけ,海賊版が氾濫していると,本物はどこで手にはいるか分からないくらいである。確かに大手のスーパーや百貨店などでは,街中の店の5倍くらいで売られている商品があるが,果たしてこれが本物かは疑わしいところである。 パソコンソフトについても,日本では考えられないくらい海賊版が蔓延している。何しろ,大手量販店で販売されているパソコンにも,海賊版のOSがインストールされていることもあり,「中国国内で製造されたパソコンについては,出荷の際に正規のOSをインストールしておかねばならない。」「輸入パソコンについても,販売する前に正規のOSをインストールしておかねばならない。」「パソコンメーカーは,毎年前年度のパソコン販売台数とプリインストールしたOSの本数を国に報告しなければならない」という通達を国が2006年にわざわざ出しているほどである。言い換えれば,それまで野放し状態であったといえよう。 中国国家知識産権局が5月に公表した「2006年度中国ソフトウェア海賊版調査報告」によると,2006年の中国のソフトウェア業界の海賊版率は,前年に比較すると,減少しており,政府の対策の成果を謳っている。報告では,中央,地方を含めた政府部門では2005年に正規品を100%使用するになったとし,法人ユーザーでは48%から39%,個人ユーザーでは88%から78%に減少したとしている。政府部門はともかく,それ以外ではまだまだ高い割合を示している。また,本調査は実地検査ではなく,インターネットを介した調査であり,実際にはこれ以上の海賊版率であるかもしれない。 ![]() 海賊版を販売するDVDショップ 4 商標等の侵害 さて、コピー商品や模倣品,海賊版については,企業当事者はともかく,一般市民にとっては,買わなければ被害に遭わないし,買ったとしても自分が出した金だけの被害で済むので,それほど深刻ではなく,笑い話の種にもなるので,自分には関係はないと思われる方がほとんどだろう。ところが、中国では,それ以外にも知的財産権の侵害事例が起きている。その一つが商標等の侵害である。中国に限らず、外国で日本製の商品を販売する事業者にとっては、看過できない問題であり、注意喚起したい。 よく知られているのは、商標登録を先んじてなされてしまい,本家の企業が知的財産権被害の加害者になってしまうという事例である。中国でも人気の日本アニメ「クレヨンしんちゃん」の中国名「?筆小新」が中国企業に先に登録され,日本の版元と正式なライセンス契約を締結している企業の商品に撤去命令が出たというニュースが報じられた。中国での商標登録は早い者勝ちというところがあり,先に登録されてしまうと,正式な版元であっても,その商標を使用することができない。使用したら,先に登録してある者の知的財産権を侵害したということになる。すなわち、正式な権利者が加害者となってしまうのである。日本の出版元は、「中国企業が商標登録した?筆小新という商標は有効と判断した中国商標局の判断は誤り」として行政訴訟を北京で起こしているが、どのように決着するか見当がつかない。いずれにせよ、当該企業にとっては、相当な手間と時間と金を浪費することになる。 このような例は,有名な大手企業の商品だけではなく,中小企業でも充分起こりうる。その例が,日本酒等の銘柄の商標登録である。中国には,日本酒や焼酎なども数多く輸出されているが,その銘柄が先に中国企業により商標登録されているものがあり,今後商標の侵害を申し立てられれば,当該銘柄を使用できなくなる可能性も十分ある。 もちろん,そのような状況になった場合には,正式な権利者であることを主張して裁判で争うこともできないこともないが,被害にあった日本企業側が、中国企業側の悪意や登録当時の中国での商標の知名度を立証しなければならず、資本力や知財対策のノウハウの乏しい中小企業には負担が大きく、きわめて困難である。裁判で争う以前に商標の買い取りを求められることもあるようだが,裁判の手間は省けても,相応の費用が必要となる。 偽物の生産や販売の現場を摘発して商品を押収することで、一定の効果があがる模倣品問題に比べ、商標権の侵害問題は解決が難しい。このような事態を避けるためにも,中国での販売を始める際には,あらかじめ商標登録を行っておくことが望ましい。それが,結局安くつくことになる。 5 中国政府の知的財産権対策 さて,これまで述べたように中国における知的財産権の侵害の状況は,ひどいものであるが,外国からの圧力を受け,中国政府は本気で保護対策に取り組み始めた。知的財産権を保護することが自国の国益になることに気づいたのである。2006年3月に策定された「第11次5カ年計画」においては,「自主創新」−すなわち、他をまねるのではなく,自らオリジナルを生み出すこと−を主要目的に掲げ,政府主導による知的財産権保護の強化に向けた取組を強化している。知的財産権摘発センターを主要都市に50カ所設置し,侵害案件等の処理等に関するワンストップサービスを提供することとしている。 また,2004年から「知的財産権保護宣伝ウィーク」と銘打った大規模なキャンペーンを全国的に展開しているが,今年4月に実施されたキャンペーンは,これまでで最大規模のものであった。WTO加入後も知的財産権保護対策が不十分として,今年5月にアメリカから提訴されたところであるが,国際的な批判に対するアピールというねらいもあるのだろう。北京、上海、広州などの主要都市で,フォーラム、違法案件の発表、ショップの摘発,押収したDVDの公開廃棄などさまざまな活動を実施した。上海でも,ショップの摘発や押収した数万点に及ぶ海賊版の廃棄処分といったニュースが連日報じられた。 ところが,このような政府の活動にも関わらず,摘発されたショップは相次いで再開されている。また,すぐに撤収できるよう露天スタイルで営業しているものも多い。まさにいたちごっこである。いつまでたっても,海賊版やコピー商品が無くならないのは,やはりそれだけの需要があるからであり,知的財産権保護対策で一番重要なのは,市民の意識改革であろう。しかしながら,それは一筋縄ではいきそうにない。広大な国土と13億という巨大な人口を有する中国では,政府の意向は末端までは届きにくい。また,所得格差の大きい中国では,カネを稼ぐためには何でもありといった拝金主義的な傾向が見受けられる。所得格差が是正され,誰もが一定水準以上の生活を享受できるようにならないと事態は改善しないのかもしれない。それには,まだまだ時間がかかりそうである。 6 最後に 中国に進出,あるいは販路の拡大を目指す企業は多いが,知的財産権対策は非常に重要である。商標等だけでなく,現地で合弁会社設立あるいは現地企業へ生産委託を行う場合には,技術流出等の懸念もある。JETROでも知的財産権対策については,積極的に取り組んでいる。詳細は,下記のWEBサイトを参照されたい。 http://www.jetro.go.jp/biz/world/asia/cn/ip/ |
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