上海焼酎事情
貿易ニュース鹿児島2008.1月号
  先頃発表された外務省の海外在留邦人数調査統計によると,2006年10月時点で,上海には約4万4千人の日本人が居住(長期滞在)しているとされている。これに出張者や観光客等を加えると,常時5〜6万人の日本人が上海にはいると言われている。こうなると,日本の地方都市程度の人口規模となり,日本食レストランや日本の食材を扱うスーパーなど,日本人向けのサービスも充実してきている。
 これらの店では,鹿児島県の特産品である焼酎も数多く提供されている。今回は,上海における鹿児島県産焼酎の流通状況について報告したい。

1 日本食レストランと日本食材スーパーについて
 上海には,居酒屋や寿司店,割烹,焼き肉屋,日式ラーメンなど日本式の食事を提供する店は,300から400あると言われている。数多くの飲食店が立地し,競争の激しい上海では,毎月のように新しい店がオープンし,その陰で不人気店が潰れており,その正確な数を把握するのは困難である。しかしながら,酒造会社の地道な営業努力のおかげで,そのほとんどの店で県産焼酎は提供されている。
 また,小売店でみると,上海市内には日本の食材を専門的に扱う店舗が10店舗程度ある。これに一部扱う店舗を加えると,おおよそ20くらいであろうか。そのほとんどの店で県産焼酎は販売されているが,銘柄数は少なく,数もそれほどは出ていないようである。

2 銘柄数について
 上海市内で流通している県産焼酎の銘柄は,今年10月時点で21社60銘柄を確認している。1年前は15社30銘柄程度だったので,その数は年々増えており,現在商談が進行中の銘柄もある。他県産の焼酎も30銘柄程度あるが,やはり鹿児島県産が圧倒的に多い。焼酎が中国で正規に輸入され始めたのは2004年からである。最初に入ったのが,大分県の「いいちこ」で,これが今でも大きなシェアを占めている。しかしながら,食べ飲み放題のコースに組み入れられたり,しょっちゅうキャンペーン対象として原価を下回るようなコストで提供されるなど,あまりいい状況とはいえない。対して,鹿児島県産焼酎は,遅れはとったものの,食べ飲み放題コースには入らない別勘定だし,キャンペーンも一時期だけに限定されており,それなりの地位とブランド価値を確立しているといえる。

3 販売価格について
 焼酎を中国に輸出する場合,物流コストに加え,関税や増値税,消費税が課税されるので,日本での販売価格の倍くらいになっているのが多い。小売店での販売価格は,4合瓶で概ね110元から150元程度である。(1元は約15円)これが飲食店になると,250元から300元程度で提供されている。希少な黒糖焼酎などは600元というのもある。通常,中華料理店で紹興酒や白酒を注文すると,300CCで50元程度からあるので,比較するとかなり割高になる。日本では大衆酒の焼酎が高級酒になっているのである。それでも,日本食レストランでは焼酎は人気で,キープされたボトルがずらりと並んでいるのは壮観である。

4 焼酎バーについて
 最近,豊富な品揃えを前面に出した焼酎居酒屋や焼酎バーが相次いでオープンしている。飲食店が過剰に立地し,競争が激しいこの業界では,他店と差別化を図らないと生き残れない。そこで日本で人気の焼酎をそろえることで,生き残りを図っているところが多い。もちろん正規輸入品だけでは,不十分なので,いわゆるハンドキャリーで持ち込んだものも多い。ものにもよるが,たいていグラス1杯20元程度から提供されている。
 【人気の焼酎バー】

5 ワインについて
 焼酎のライバルともいえるワインは,中国のWTO加盟による関税の引き下げなどの影響で、ここ10年で輸入量が27倍と急増している。また、その5倍の生産量を誇る国産ワインも含めると、その消費量は国内ではビールに次いで2位となっている。スーパーには大きなワインコーナーがあり,中華料理店でも提供されるなど,中国人社会に深く浸透している。国産ワインが幅広く飲まれてはいるが,やはり味や質で劣るので,経済発展に伴う所得の向上を背景に,多少高くても輸入ワインが好まれるようになってきており,輸入量急増の背景となっている。2006年の国家統計局の資料によると,輸入相手国では,2リットル以下のボトルでは,フランス,オーストラリアが多く,2リットル以上(樽)では,チリ,スペイン,オーストラリアが多くなっている。なお,最近長野県産のワインが試験的に輸入されている。
11月には,上海でFHC2007(国際食品飲料ホテル等展覧会)が開催され,世界各国から55カ国800業者が出展した。その中で,圧倒的に目につくのがワインである。世界中の至る所のワインが展示されている。
 一方,焼酎はというと,日本ブースが設けられ,25業者がブース出展していたが,1銘柄もなかった。もちろん,国際的に愛飲されているワインと日本だけで飲まれている焼酎を比較することは無謀であるが,やはりPRのためには,このような場を積極的に活用して出展してもらいたいというのが本音である。
 【FHC2007の様子】

6 課題
 これまで紹介したように,焼酎は幅広く流通はしているものの,今のところは日本人や日系企業勤務の中国人,日本に留学経験のある中国人などごく狭い社会で飲まれているだけである。そこに年々新しい銘柄が参入しており,限られたパイを食い合っている状況である。やはり,中国に進出した以上は,中国人に飲んでもらいたい,中華レストランで飲んでもらいたいというのが,業界関係者の共通の願いである。確かに,今でも日本人に人気のある中華レストランでも提供はされてはいるが,確認できているのは3店舗のみである。また,大手飲料メーカー系の焼酎は,その販売力もありメニューにも掲載されているが,県内酒造会社の焼酎は載っておらず,あることを知っていないと注文できない。また,
中華系若しくは外資系のスーパーでは,焼酎が販売されているところは皆無である。中国の商習慣で,新しい商品を店に置くには,棚代(入場料)が必要などまだまだ敷居が高い。(すなわち金を払って置かせてもらっている状況)それでも,焼酎が売れることが分かれば,棚代は不要となるわけで,そのためにいかに中国人に対して,PRするかというのは重要である。

7 焼酎のPRについて
 焼酎は,一般の中国人にとっては,未知の飲料である。このため,いろんな機会を通じてPRする必要がある。
 今年は,日中国交正常化35周年であり,日中文化スポーツ交流年でもある。これに伴い,多くの交流イベントが開催されているが,7月には「上海ジャパンフェア」が開催された。これに鹿児島県でもブースを出し,観光PRとともに焼酎のPRを行った。
 【上海ジャパンフェア】

 これに先立ち,当地の中国人向けフリーペーパーから,鹿児島県を紹介する原稿の寄稿とプレゼント用商品の提供依頼があり,酒造会社に協力を求め,焼酎を提供し,記事にしてもらった。
 また,本誌10月号でも報じられているが,8月末には,中国東方航空の鹿児島・上海線が開設5周年を迎えたことから,知事を団長とする60名規模の訪問団が上海を訪れた。この種の訪問では,関係者に謝意を伝えるため,知事主催で記念レセプションを開催するのが一般的であるが,この場を県酒造組合連合会の協力をもらい,焼酎PRの場とした。これまで,焼酎のPRは各蔵元が個別にやっていたのが現状であるが,組合としてやるのは画期的であった。組合も焼酎を「世界の蒸留酒」としての地位の向上を図るために,5月に「薩摩焼酎宣言」を発表したばかりであり,タイミングもよかった。レセプションは,「中華料理と焼酎の夕べin上海」と銘打ち,ステージ上には県を代表する銘柄の103本の1升瓶が並べられた。また,鏡割りを行い,焼酎で乾杯した。会場内には焼酎バーを設け,14の蔵元がそれぞれの自慢の焼酎を提供した。さらには,抽選会で焼酎をプレゼントするなど,まさに焼酎づくめであった。上海側からは市政府関係者,航空会社,旅行社に加え,飲食店や食材卸業者など業界関係者,公募による一般市民など多数出席した。
 ところで,中国では宴会となると,お互いのグラスに酒を注ぎあい,「あなたの成功のために乾杯しましょう」などといって,入れ替わり立ち替わりで乾杯を繰り返すのが習わしである。今回の市政府関係者など焼酎を初めて飲む方も多かったのであるが,この当地の名物である乾杯合戦が焼酎で繰り返されるなど大変好評であった。
 レセプションに先立ち,焼酎の商談会や焼酎セミナーも開催し,いずれも大盛況であった。健康志向の高まりから,焼酎の普及の可能性を認める中国人バイヤーも確実に存在している。
 【中華料理と焼酎の夕べ in 上海】

 さらに,外国人の賓客が訪れる機会の多い在上海日本国総領事館の総領事公邸にも焼酎を置かせてもらうことができた。また,先日は当地で発行されているイベント情報誌「イベントチャイナ」の1コーナー「戦う地方自治体−踊る行政マン」の取材を受けたが,そこでも焼酎のセールスマンを自認している旨書いてもらった。
 県人会は当然の事ながら,私が出席する宴会等で持ち込みが認められているような場合には,必ず当事務所に提供された焼酎を持参するなどしてPRに努めている。各酒造会社にも,引き続きPRに努めてもらいたいと思う。それでも単県,単一酒造会社では弱いので,上部団体,例えば日本全国の酒造組合連合会のような組織を通じ,一体的なPRができれば効果的であるが。関係者には,是非検討してもらいたいものである。

8 最後に
 昨年10月に新たに発足した鹿児島県酒造組合の前身である県酒造組合連合会は,前述したように2007年5月に「薩摩焼酎宣言」を発表した。その中で,声高らかに「薩摩焼酎」を世界中で愛される蒸留酒に発展させると宣言している。上海は,日本を除けば,世界中で最も焼酎が飲まれている都市である。この地での普及を足がかりに,焼酎の相対的地位が高まることを願ってやまない。