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その9

当協会の理事で,弓場貿易株式会社社長の弓場秋信氏による,すぐに役立つワンポイント貿易アドバイス!

その9

弓場秋信氏中国・香港を中心とする新型肺炎(SARS)の流行とそれが取引に及ぼす影響を肌で感じている今日この頃である。海外との取引では、その国の日々の変化が見えないだけに予測できない事態に遭うことが多々あり、改めてリスク管理(ヘッジ)の重要性を感じる。
過去の取引の中で私が最も大きな影響を受けたのは、宗教間の対立による暴動・焼き討ち等で取引停止に追い込まれた冷凍鰹のインドネシアからの輸入である。鰹節用の原料として最も品質が高いと言われる一本釣りインドネシア産鰹を年間2000トン、アンボンより輸入していた。このメーカーにたどり着くまでに2社と取引した。最初の会社は品質面で劣り、2社目は国営企業で最初は順調に推移していたが後に資金面で行き詰まり供給が出来なくなった。そしてインドネシアで偶然話をした台湾人が紹介したアンボンの華僑系インドネシア人の工場が3社目である。アンボン島の中心地で建築資材の卸販売を正業としながら新たに鰹の冷凍加工工場を始めた矢先で、拙いインドネシア語での会話となったが真面目で仕事熱心な社長と馬が合い、信頼に足りると判断し取引が始まった。鹿児島のメーカーに同行を願い現地工場での技術指導もあり、品質・価格ともに満足し加工された製品の全てを引き取り数年して取扱量は年間2000トンまでに達した。工場では更なる生産増を目差し設備投資に着手した矢先に事件は起こった。
従来イスラム教徒とキリスト教徒が仲良く平和に暮らしていた島に、異教徒同士の反目を画策し、内乱状態に持って行こうとする政治的背景を持ったグループが島に入り、お互いの村の焼き討ち・暴動へと発展し、無政府状態がつづく中で冷凍工場も略奪・焼き討ちに遭い、実直で仕事熱心な社長も全ての資財を失い島外へと移住した。と同時に私も冷凍鰹ビジネス4億円分の売上を失った。それは全売上の40%に相当した。しかし会社の致命傷になることもなく今も事業を続けられているのは、常日頃よりリスクヘッジを念頭に置きながら供えをしていた事が大きかった。輸出入のバランス、取引相手国・地域の分散、取扱商品の多様化、財務体力の強化等である。
世界には多くの民族(部族)・宗教、富の不平等、政治腐敗、文化・習慣、価値観の多様化、環境問題などが存在し、それらが複雑に絡み時として形となって表面化する。不測の事態に対しての備えをしながら日常の仕事に励んで生きたい。
(貿易ニュース鹿児島2003.6月号掲載)

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