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上海より

上海より

(財)日中経済協会上海事務所  所長 﨑岡 洋右

公共交通カードに見る施行体制の問題
東京ではJRがスイカ(カード)で利用客が電車に乗れる。しかしこのカードはJRでしか使えない(現在他の交通機関でも一部使用できるようだ)。ところが上海では鉄道(地下鉄も含む)、バス、タクシー、船に共通して使用できるスイカのようなカードがある。中国語では「公共交通」と言うが、その前に上海の地名を付けて「公共交通」としている。このカードを持っていると日常どの交通手段にも使用できて大変便利である。カードに入れた金額がなくなると、地下鉄等の駅のキップ売り場でいつでも希望する金額を入れれば一枚のカードで継続使用が可能である。JRのスイカがまだ一部の交通手段にしか使用できないが、上海ではすでに述べたように鉄道、地下鉄、バス、タクシー、船と上海市のすべての交通手段に利用できるのである。この差はなぜだろうか。技術的な差であろうか。いやそうではない。技術的な面では、この程度のものでも日本の方がよほど上である。そう考えるとその原因はカード利用実施を施行する体制の問題ではないかと考える。
中国は良くも悪くも一党独裁の国家であり、政府の決定は異義が挟めない。上海の市政府でも同じだ。上海市の決定事項は例え、いくばくかの反対があっても即座に実施されるのである。日本の場合は国及び地方行政でも国や行政体の意志が実施に移されるまでのプロセスは難航する例が多い。更に企業や団体の利益及び組織が多様化すればするほど、一つの事で多くの関係先があればあるほど、決定しにくい状況となる。民主主義を維持することは時間も金もかかる厄介さを我慢しなければならないことを痛感する。

国の発展の原動力は国の体制が時には有利になることも
今上海の発展はテレビやニュースメディアに連日紹介されている通り、目を見張るものがある。上海の発展の大きな原動力は各国の投資等による資本の導入によって支えられていることはもちろんのことであるが、発展計画を実施に移す市政府なり、中央政府の強力な指導を見逃すことはできない。日本における東京等大都市を含む全国の都市改善計画がいっこうに進まなかったり空港の滑走路建設に多くの年月をかけている例を見るにつけても民主主義を守ることの高コストという面を考えざるを得ない。だから社会主義がいいと言っているわけでは決してないが、上海の日々発展の早さと都市整備の早さを見ると、日本の現状と比較し、少々のあせりを感じるしだいである。
上海ではしばらく見ない所が、ある日行くと突然なくなり、新しい建物が出来たり、公園や道路に早変りする光景は日常茶飯事である。みるみる都市計画は推行していくのである。都市計画ばかりではなく、経済発展に必要な多くの分野の事柄がどんどん進められいく様を見ると時には一党独裁もすてたものではないという考えがする。この分でいくと日本が発展にかけた時間の三分の一の時間で上海の発展は達成されるのではないかと思われる。最近の住宅建設、オフィスビル、道路の拡充等の光景を見せられると、その感を強くする。

2010年後は大丈夫か
上海は今2010年の万博開催をめざして都市整備を含めて改善の努力に余念がない。おそらく更らなる発展を我々はこれからも見にすることにだろう。しかしながら、日本の例を考えると、発展過程では応々にして、それにのみ主力が注がれて、影の問題点に目がとどかないものだ。日本のバブル崩壊後の惨状を見るにつけ、また上海の今の発展の促進力の強さを考えると、その力が強ければ強いほど、後々に生じるであろう問題の大きさを心配したくなる。上海の経済は前述のごとく基本的には外資導入に支えられての発展である要素が強い。今後の世界経済の動向も上海の発展に大きく影響することを考えると、2010年後もこのままの発展が可能かどうか疑問のあるところである。一部の上海人はこの点を理解しているものの、多くの上海人及び外国人は上海の発展を享受し、楽観している向きもあるようだが、上海を愛する者としては何か心配の今日この頃である。

(財)日中経済協会上海事務所連絡先:
中華人民共和国上海市延安西路2201号 上海国際貿易中心大厦2001号
電話:86-21-62701647 FAX:86-21-62752211
(筆者は1994年7月~1997年7月までジェトロ鹿児島貿易情報センター所長として勤務)

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